9柱の女神が落としたリボン

インスピレーションを与えてくれた作品・出来事の備忘録。

【絵本】仇討の彼方に・・・

皆さんこんにちは、ばむよです。今日は絵本の紹介です。

取り上げるのは『曽我兄弟』(新・講談社の絵本、2002)。

 

何が良いかと言いますと絵です。絵本だから当たり前か。でもとにかく、布施長春の絵が最高によい。

大学のある授業で先生が見せてくれたんですけど、その表紙に描かれた二人の凛々しい若者に胸うたれ、早速購入してしまったというわけです。

 ↓これこれ!!凛々しくてステキ。

曾我兄弟 (新・講談社の絵本)

曾我兄弟 (新・講談社の絵本)

 

 

 内容は工藤祐経(すけつね)に父を殺された兄弟の仇討ち物語。14世紀後半に成立した『曽我物語』がもとになっています。

絵本に戻りましょう。二人の兄弟が父の敵を討つと固く誓い、だんだんと成長し、最後に仇討を遂げる様子がみずみずしい筆致で描かれております。背景には日本の自然風景が広がっており、これがまた水墨画のような淡さと繊細さを兼ね備えた、美しい風合い。ページをめくるたびにため息が出ます。本当に。

中でも美しいのは、「一万が九つ、箱王が七つの秋でした。」から始まるページです。兄弟二人が月明かりの中、飛んでいく雁を見つめている場面。黒く浮かび上がった松や灯篭のシルエット、月明かりに透けるようなすすきや草草、光る夜露、遠くに臨む山々の稜線。今にも虫の音が聞こえてきそうです。そんな景色のなかで、幼い兄弟は親子連れの雁と我が身を引き比べ、父のことをはかなんでいる。

情緒あふれる、秋の夜長のひとときです。これはぜひ現物を見てほしい・・・!

 

一応ストーリーに関しても書いておきますね。

ひとことで言うと、絵本だからと言って容赦なし。厳しいというか荒々しいというか、古典ってそういうところがありますよね・・・。そもそもこの絵本は昭和10年代に出版されたのを復刊したものらしいので、まあ納得といえば納得。

(曽我兄弟とは関係ないが「新・講談社の絵本」シリーズには『かちかち山』がある。果たしてタヌキは「婆汁」を作るのか、それともそこは「ひっかいてお婆さんに傷を負わせる」だけなのか・・・非常に気になる。絵本で「婆汁」は相当グロテスクだと思うのだが。

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(富士山の近くにある「カチカチ山」にシュールな絵が掲示されていたので載せとく)

※追記:アマゾンのレビューには「おばあさんが殺される」と書いてあったのでおそらく婆汁にされてしまうのだろう。昔の絵本は本当に容赦がない!!)

 

話を戻すと、でもこの兄弟はある意味幸せだったのかもしれない。「仇討ち」という人生の目標がはっきりしていて、迷いのない、純度の高い一生を送れたのだから。だからこそ人々は彼らを「英雄」と呼ぶのかもしれません。

 

・・・ふと思いましたがよく考えると「かちかち山」も仇討物語なんですよね。仇討ちというか復讐というか。でもウサギが英雄かというとよく分からない。むしろしたたかでちょっと怖い。なんだろうこの違いは。

 まあいいや、その考察はいずれ。

今回はこのへんで。ではまた!